①「管理計画認定制度」が広まらないのは居住者にメリットがなかったから
「管理計画認定制度」とは、良好な管理を行なっているマンションに対して自治体が「管理計画認定」を行うという制度です。
これは、老朽化し、管理が適切に行なわれていないマンションが今後増加すると見込まれることに対応し、良好な管理を行なっているマンションを認定してメリットを与える一方で、管理の不適切なマンションに対しては自治体が指導を行なうことができるという制度の一環として実施されるものであり、今後のマンション管理・再生のための重要な制度と位置づけられています。
この制度は2022年4月に全面施行されたのですが、実際に管理計画の認定を受けたマンションは少数であり、まだまだ広く行き渡っているとはいえません。
その背景には、管理計画認定を受けるには、マンションの所在する自治体(市区等)にて「マンション管理適正化推進計画」が定められている必要がある(市区域以外は都道府県にて定められている必要がある)ところ、このような推進計画が定められていない自治体も多数存在することや、既存のマンションが認定を受けることにより得られるメリットが限られていることが挙げられます。
具体的には、近畿圏で推進計画を定めている市は、現時点(2022年12月)で大阪市、堺市、岸和田市、豊中市、吹田市、高槻市、茨木市、箕面市、東大阪市、神戸市、尼崎市、京都市、橋本市、田辺市、守山市であり、都道府県単位では大阪府、兵庫県、和歌山県、滋賀県に留まっています。
また、現時点では、管理計画認定を受けることによるメリットとして、「フラット35」による住宅ローンを組む際に金利が優遇されることがありますが、新築マンションであればともかく、既存のマンションの居住者にメリットはないため、管理組合が積極的に取り組む動機がさほどありませんでした。
②既存マンションにも「固定資産税減額」のメリットが!
ところが、先日公表された「令和5年度税制改正大綱」には、管理計画認定制度にとって注目すべき内容が盛り込まれていました。これは築20年以上のマンションに居住する、相当数の区分所有者にメリットがある内容であり、今後「管理計画認定制度」が急速に普及することが見込まれるものとなっています。
具体的には、管理計画の認定「(修繕積立金の額の引き上げにより認定基準に適合した場合に限る。)」を受けたマンションのうち「一定のもの」について、2023年4月1日から2025年3月31日までに「一定の」大規模修繕を行ない、その旨を「区分所有者が市町村に申告した場合に限り」、修繕完了の翌年度分の固定資産税額「(1戸あたり100㎡相当分までに限る。)」の3分の1「を参酌して6分の1以上2分の1の範囲内において市町村の条例で定める割合」に相当する金額を減額する、とされています。
(※筆者にて税制改正大綱の文言を要約。カギ括弧は筆者による)
要するに、管理計画の認定を受けたマンションが2023年4月から2025年3月までに大規模修繕を行なったときは、区分所有者(マンションオーナー)の申告により修繕完了の翌年度の固定資産税が2分の1から6分の1の範囲で減額されるということです。来年4月から2年以内に2回目以降の大規模修繕を行なう予定のマンションであれば、このメリットを享受できることになります。
改正大綱の内容なので、実際にどのような要件が必要となるのかは改正が成立するのを待つ必要があります。気になるところにカギ括弧をつけてみましたが、下記の要素がポイントとなりそうです。
①修繕積立金の額を一定以上に引き上げ、管理計画の認定を受けていること等により、必要な積立金を確保していること
②「一定の」マンションが「一定の」大規模修繕を行なうこと(「一定の」の具体的内容については※を参照)
③区分所有者が市町村に申告する必要があること(修繕工事後3か月以内)
④100㎡を超える場合、減額されるのは建物部分100㎡相当分までに限られること
⑤減額幅は市町村の条例により2分の1~6分の1の範囲で定められること
※国交書の「税制改正要望結果概要」によれば、築20年以上で10戸以上のマンションであり、過去に
1回以上長寿命化工事(大規模修繕工事)が行なわれていること、屋根防水工事・床防水工事・外壁塗装等工事という長寿命化に資する大規模修繕を実施すること等が要件となるようです。
改正大綱によれば、今のところ2年間の特例として、来年4月から2年以内に大規模修繕が行なわれる必要があるのですが、今後継続的に制度が維持されるのであれば、当てはまるマンションも増えてくることになります。
管理計画の認定は、最終的には自治体に申請することになりますが、マンション管理士に事前確認を依頼することでスムーズな認定を受けることができるほか、前回のコラムで触れた「マンション管理適正化診断サービス」と併せて申請することも可能です。
③管理計画認定には事前の準備が不可欠~専門家の活用を!
このように、「管理計画認定制度」を利用するメリットが拡大するなか、実際に認定を受けたいと考えている管理組合も今後増えてくるものと思われます。
しかし、ここで重要なのは、やはり「事前の準備」です。管理計画の認定を受けるためには、一定の条件をクリアし、良好な管理が実際に行なわれている必要があります。そこで、認定を受ける前に、条件が満たされていない部分を改善しておかなければなりません。
例えば、管理規約が何年も改正されていないような場合には、現行の標準管理規約に沿った規約の内容にアップデートすると共に、改正後の規約に従った管理が実施できるよう体制を整えなければなりません。
また、長期修繕計画を定期的に見直しておらず、将来的に修繕積立金が不足する可能性がある場合は、適切な額に修繕積立金を増額しなければなりません。
従いまして、管理計画の認定を受けるに際しては、現在の管理状況が適切であるか、つぶさに検討する必要がありますので、マンション管理士等に相談し、適切なコンサルティングを受けることをお勧め致します。
当事務所では、事前確認を行なう資格を有するマンション管理士が、事前確認を行ないます。また、認定基準に基づく管理状況のコンサルティングも行ないます。相談は無料ですのでお気軽にお問い合わせ下さい。